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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)3293号 判決 1996年3月29日

アメリカ合衆国

カリフォルニア州 九四〇八〇

サウス・サンフランシスコ・ポイント・サンブルーノ・ブルヴァード四六〇

控訴人

ジェネンテック・インコーポレイテッド

右代表者

ステファン・レインズ

右訴訟代理人弁護士

品川澄雄

吉利靖雄

大阪市中央区道修町二丁目二番八号

被控訴人

住友製薬株式会社

右代表者代表取締役

進功

花田庄司

右訴訟代理人弁護士

田倉整

吉原省三

諸石光熈

右輔佐人弁理士

朝日奈宗太

主文

一  原判決を取り消す。

二  当裁判所は、控訴人が被控訴人に対して、控訴人に本判決が送達された日から一か月以内に一億円の担保を立てることを条件に、次のとおり命じる。

1  被控訴人は、別紙目録一記載の形質転換されているチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞を用いて組換ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子を製造してはならない。

2  被控訴人は、別紙目録二記載の組換ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子を製造し、販売し、販売のために宣伝、広告してはならない。

3  被控訴人は、別紙目録三記載の方法を用いて同目録記載の組換ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子を製造し、販売し、販売のために宣伝、広告してはならない。

4  被控訴人は、別紙目録四記載の粉末状注射用製剤を製造し、販売し、販売のために宣伝、広告してはならない。

5  被控訴人の占有する別紙目録一記載の形質転換されているチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞、同目録二記載の組換ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子及び同目録四記載の粉末状注射用製剤に対する被控訴人の占有を解いて、これを控訴人の委任する管轄地方裁判所所属の執行官の保管に移す。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

二  本件記録によれば、以下の事実が一応認められる。

1  控訴人は、次のA特許権とB特許権を有する。

(A特許権)

発明の名称 組換ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子

出願日 昭和五八年五月六日(特願昭五八-七九二〇五)

優先権主張

<1> 一九八二年(昭和五七年)五月五日

米国特許出願三七四八六〇号

<2> 一九八二年(昭和五七年)七月一四日

米国特許出願三九八〇〇三号

<3> 一九八三年(昭和五八年)四月七日

米国特許出願四八三〇五二号

の各アメリカ合衆国特許出願に基づく優先権主張

特許登録日 平成三年一月三一日

登録番号 第一五九九〇八二号

特許請求の範囲

「一 ヒト細胞以外の宿主細胞が産生する、以下の特性:

1 プラスミノーゲンをプラスミンに変換する触媒能を有する

2  フィブリン結合能を有する

3  ボーズ(Bowes)メラノーマ細胞由来のヒト組織プラスミノーゲン活性化因子に対する抗体に免疫反応を示す

4  クリングル領域およびセリンプロテアーゼ領域を構成するアミノ酸配列を含有する

5  一本鎖または二本鎖タンパクとして存在し得る

を有する、ヒト由来の他のタンパクを含有しない組換ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子であって、以下の部分的アミノ酸配列を含んでいる活性化因子:(注)

(注) 特許請求の範囲には、ここに右の「以下の」に対応する原判決別紙目録六の六九番から五二七番までのとおりのアミノ酸配列が記載されている。

二  ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子をコードしているDNAで形質転換されたヒト細胞以外の宿主細胞を、該DNAの発現可能な条件下で培養して、以下の特性:

1  プラスミノーゲンをプラスミンに変換する触媒能を有する

2  フィブリン結合能を有する

3  ボーズ(Bowes)メラノーマ細胞由来のヒト組織プラスミノーゲン活性化因子に対する抗体に免疫反応を示す

4  クリングル領域およびセリンプロテアーゼ領域を構成するアミノ酸配列を含有する

5  一本鎖または二本鎖タンパクとして存在し得る

を有し、以下の部分的アミノ酸配列:(注)

(注) 特許請求の範囲には、ここに右の「以下の」に対応する原判決別紙目録六の六九番から五二七番までのとおりのアミノ酸配列が記載されている。

を含んでいる組換ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子を産生させ、次いで該組換ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子を回収することを特徴とする、ヒト由来の他のタンパクを含有しない組換ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子の製造方法。

三  ヒト細胞以外の宿主細胞が産生する、以下の特性:

1  プラスミノーゲンをプラスミンに変換する触媒能を有する

2  フィブリン結合能を有する

3  ボーズ(Bowes)メラノーマ細胞由来のヒト組織プラスミノーゲン活性化因子に対する抗体に免疫反応を示す

4  クリングル領域およびセリンプロテアーゼ領域を構成するアミノ酸配列を含有する

5  一本鎖または二本鎖タンパクとして存在し得るを有し、以下の部分的アミノ酸配列:(注)

(注) 特許請求の範囲には、ここに右の「以下の」に対応する原判決別紙目録六の六九番から五二七番までのとおりのアミノ酸配列が記載されている。

を含み、ヒト由来の他のタンパクを含有しない組換ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子の治療上有効量を、薬剤上許容し得るキャリヤーと混合して含有する血栓症治療剤。」

(B特許権)

発明の名称 ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子をコードしているDNAを発現し得る組換え発現ベクターで形質転換された宿主細胞

出願日 昭和五八年五月六日(特願昭五八-七九二〇五の分割出願。特願昭六一-一八五四二七)

優先権主張 A特許権と同じ

特許登録日 平成六年六月二一日

登録番号 第一八五二七二一号

特許請求の範囲

「形質転換された細菌、酵母または哺乳動物細胞中に於いて、下記のアミノ酸配列一~五二七を有するヒト組織プラスミノーゲン活性化因子をコードしているDNAを発現し得る組換え発現ベクターで形質転換された細菌、酵母または哺乳動物細胞:(注)」

(注) 特許請求の範囲には、ここに右の「下記の」に対応する原判決別紙目録六の一番から五二七番までのとおりのアミノ酸配列が記載されている。

2 被控訴人は、英国法人ザ・ウェルカム・ファウンデイション・リミテッドから組換DNA技術の導入を受け、業として別紙目録一記載の細胞(イ号細胞)を培地で培養して同目録三記載の方法(イ号方法)を用いて同目録二記載の組換組織プラスミノーゲン活性化因子(イ号物件)を製造し、これを販売すること及び同目録四記載の血栓症治療用製剤である粉末状注射用製剤(イ号製剤)を製造、販売することを企図して、住友化学工業株式会社の愛媛工場内に動物細胞大量培養タンクを建設し、組換DNA技術を利用するに当たって医薬品等の品質及び製造上の安全性を確保するために厚生省の定めた指針に基づいて、製造に利用する設備、装置及びその運営管理方法等(製造計画)が該指針に適合していることの確認を厚生大臣に申請し、申請を審議した厚生省中央薬事審議会は、厚生大臣に対して、右確認申請に係る製造計画が右指針に適合する旨の答申を行った。被控訴人が右製造計画において、製造に利用しようとする設備及び装置は右動物細胞大量培養タンクである。被控訴人は平成七年五月一九日、イ号製剤の市販を開始した。

3 被控訴人は、A、B発明の本件特許権には無効事由があると主張するが、そのようには認められず、被控訴人のt-PAはA、B発明のt-PAと均等のものと一応認められる。

そして、イ号物件がA発明のうち特許請求の範囲一に記載の発明の、イ号方法がA発明のうち特許請求の範囲二に記載の発明の、イ号製剤がA発明のうち特許請求の範囲三に記載の発明の、イ号細胞がB発明の、それぞれ技術的範囲に属するものとすべき他の構成要件の具備については、被控訴人も明らかに争わないものと認められるので、右の各イ号はそれぞれの特許発明の技術的範囲に属するものと一応認められる。

なお、被保全権利に関する当裁判所の判断の詳細は、本判決と同日に言い渡した平成六年(ネ)第三二九二号特許権侵害予防請求控訴事件の判決に示したとおりである。

4  したがって、控訴人の被保全権利は疎明がある。

三 右のとおり、被控訴人が、イ号細胞を培地で培養し、イ号方法を用いてイ号物件を製造、販売しようとし、イ号製剤を製造、販売していて、これらの被控訴人の行為がA、B発明の特許権を侵害するものである以上、本件保全の必要性も疎明されているものと認められる。

四  よって、本件仮処分申請を却下した原判決を取り消してこれを認容すべく、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上野茂 裁判官 竹原俊一 裁判官 塩月秀平)

目録一

ボーズメラノーマ細胞から取り出したmRNAより、cDNAライブラリーを作成して、天然ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子のアミノ酸配列解析より得られた第一二番目から第一七番目のアミノ酸配列に対応する一七ヌクレオチドをプローブとしてスクリーニングを行い、その結果得られたcDNA断片をプローブとして更にスクリーニングを行うことを繰り返して得られた、目録五記載のアミノ酸配列を有する組織プラスミノーゲン活性化因子をコードしているcDNA及び翻訳されないマウスのDHFRcDNAを含み、二個のSV40由来の転写促進因子とアデノウィルス由来のプロモーターを有する発現ベクターと、マウスのDHFRをコードしているcDNAを含み、アデノウィルス由来のプロモーターを有する発現ベクターとによりチャイニーズ・ハムスター卵巣DUKX-B11細胞を同時形質転換して得られる組換チャイニーズ・ハムスター卵巣AJ19細胞

目録二

目録一記載の細胞を培養して得られた、目録五記載のアミノ酸配列を有し、以下の特性を有する組換ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子

1 プラスミノーゲンをプラスミンに変換する触媒能を有する、

2 フィブリン結合能を有する、

3 ヒト子宮細胞由来のヒト組織プラスミノーゲン活性化因子に対する抗体に免疫反応を示す、

4 クリングル領域及びセリンプロテアーゼ領域として、目録五記載のアミノ酸配列を有する、

5 主として二本鎖タンパクとして存在する。

目録三

目録一記載の細胞を培地で培養して、目録二記載の組換ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子を得て、次いでこれを単離精製する、組換ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子の製造方法

目録四

目録二記載の組換ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子の塩酸塩を含有する粉末状注射用製剤

目録五

<省略>

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